「山本由伸がドジャースと10年3億2,500万ドルで契約」「大谷翔平が10年7億ドルでドジャースへ」——これらのニュースの背後には、複雑な制度と交渉、そして日本球界との利権が絡み合っています。ポスティングシステムを「ルールだけ」ではなく、「なぜそうなるのか」「誰が得をするのか」まで深掘りします。
ポスティングシステム誕生の歴史:野茂英雄が起こした「革命」
1995年、野茂英雄が近鉄バファローズからドジャースへ移籍しました。当時の制度はポスティングではなく、球団間の交渉による「任意引退→外国人扱い」という抜け道を利用したものでした。
この移籍が話題になったことで、NPBとMLBの間で選手移籍の正式な制度化が求められました。1998年に「日米間選手契約に関する協定(ポスティングシステム)」が初めて正式に締結されました。当初の制度は現在と大きく異なり、MLB球団が入札金を提示して最高額の球団と選手が交渉する「最高額入札方式」でした。
この旧制度の問題は、入札金が球団から球団へ払われるもので選手には関係ないという点でした。2013年にテキサス・レンジャーズが松坂大輔獲得のために前代未聞の5,111万1,111ドルという入札金を提示(わずか1ドルの差で他球団を上回るために1の並びにしたと言われる)。この「青天井の入札競争」を問題視したMLB選手会が制度改正を要求し、2013年に現在の制度になりました。
現行制度(2013年〜)の仕組みと算数
現在のポスティングシステムでは、ポスティングにかけられた選手はすべての30球団と30日間交渉できます(旧制度は最高入札の1球団のみ)。選手に有利な制度改正です。
譲渡金(リリースフィー)の計算式:
| 契約金総額の範囲 | NPB球団への譲渡金割合 |
|---|---|
| 2,500万ドル以下の部分 | 20% |
| 2,500万〜5,000万ドルの部分 | 17.5% |
| 5,000万ドル超の部分 | 15% |
| 上限 | 最大2,000万ドル |
例えば選手が5,000万ドルの契約をした場合:2,500万ドル×20%+2,500万ドル×17.5%=500万+437.5万=937.5万ドルが元球団に入ります。さらに5,000万ドル以上の部分は15%ですが、上限2,000万ドルというキャップがあります。
山本由伸の場合(10年3億2,500万ドル、報道ベース):単純に2,000万ドルの上限に達するため、オリックスには約2,000万ドル(約30億円)が入ったとされています(正確な数字は非公開)。
大谷翔平の「後払い契約」と税金の知られざる関係
大谷翔平がドジャースと結んだ10年7億ドルの契約には、野球界を驚かせた仕組みがありました。契約金の97%(6億8,000万ドル)を引退後10年間にわたって後払いにするという特殊な条件です。
なぜこうしたのか。理由はぜいたく税(Competitive Balance Tax / CBT)の回避です。MLBには年俸総額が一定額を超えた球団に課税される制度があります。後払いにすることで、現在の年俸への計上額が大きく下がり、ドジャースが他の補強に使えるお金が増えます。大谷自身にとっても、引退後の長期的な収入保証というメリットがあります。
しかし後払い契約にはリスクも。もし球団が経営破綻した場合、後払いの保証がなくなるリスクがあります。大谷がドジャースという財務基盤の盤石な球団を選んだ理由の一つとも言われています。
FAとポスティングの戦略的選択——いつどちらが有利か
日本人選手にとって、ポスティングとFA(国内FA権取得後の移籍)では状況が大きく異なります:
| ポスティング | FA移籍 | |
|---|---|---|
| 球団の承認 | 必要 | 不要(権利取得後は自由) |
| 譲渡金 | 発生(最大2,000万ドル) | 発生しない |
| 交渉相手 | 全30球団(30日間) | 全球団と自由に交渉 |
| 年齢・タイミング | 若いうちに挑戦可能 | 国内FA取得まで時間がかかる |
| 選手側の取り分 | 譲渡金分が差し引かれる可能性 | 全額選手の年俸になる |
一般的に「若いうちに挑戦したい」選手にはポスティングが唯一の選択肢です。一方、国内FA取得後に移籍した場合は球団への譲渡金がなく、理論上は年俸に充てられる金額が増えます。
NPB球団の視点:なぜ手塩にかけた選手を手放すのか
「なぜNPB球団は主力選手のポスティングを認めるのか」という疑問を持つ方も多いはずです。理由はいくつかあります。
まず譲渡金収入。山本由伸の場合約30億円(報道ベース)。中規模球団にとっては戦力整備に使える大きな原資です。次に選手との関係維持。「メジャーに行きたい」という選手の希望を無視すると、信頼関係が崩れ、その球団への入団を避ける選手が増えます。「夢を叶えさせてくれる球団」というブランドが長期的な採用に有利になります。さらにスポンサー・放映権への波及効果。日本人選手がMLBで活躍すると注目が集まり、MLBの日本での放映権料にも影響します。
2026年に向けての制度変化の可能性
現在の協定は定期的に見直されており、「譲渡金の上限2,000万ドルを廃止すべき」「NPB球団の権限を強化すべき」という議論が続いています。また大谷翔平の登場により「ポスティング選手の市場価値」が劇的に変化し、制度設計の前提が変わりつつあります。
まとめ
- ポスティングは1998年に正式制度化。野茂英雄の1995年移籍が先駆けとなった
- 旧制度は「最高入札1球団のみ交渉」→現行は「全30球団と30日間交渉」(2013年〜)
- 譲渡金は契約金に応じて15〜20%、上限2,000万ドル
- 大谷の後払い契約は97%を10年後払いにすることでぜいたく税を回避する戦略
- NPB球団がポスティングを認める理由:譲渡金収入・選手との信頼・ブランド価値
情報: MLB/NPB公式・各種報道ベース / ダイヤモンドスタッツ

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