「大谷翔平がIL入り」「40人ロースターに追加」「DFA(指定解除)」——MLBのニュースには選手登録に関する専門用語が頻繁に登場します。これらを正確に理解すると、チームの戦略・選手の立場・球団の思惑がリアルに見えてきます。この記事では、MLB独特の登録制度を、野球通でも「そんな仕組みがあったのか」と驚くような深さで解説します。
MLBの登録制度:3層構造を理解する
MLBの選手登録は複雑な3層構造になっています。
- アクティブロースター(26人):今日の試合に出られる選手
- 40人ロースター:メジャー契約を持ちいつでも昇格できる選手
- マイナー(40人枠外):育成選手。マイナー契約のみ
この3層の間を選手は常に行き来しており、一つひとつの動きにチームの戦略が反映されています。
アクティブロースター(26人枠)の詳細ルール
試合に出場できる現役メンバーは通常26人(2022年に25人から拡大)。9月1日から28人に拡大されます。さらに詳細なルールがあります:
- 投手は最大13人まで(以前は制限なしで14〜15人を使うチームもあった)
- 投手13人制限は「投手の過剰依存」を防ぎ、試合テンポを上げるための2023年新ルール
- ダブルヘッダー(1日2試合)の日は27人まで拡大可能
40人ロースターの重要性:Rule 5 Drraftの恐怖
ここが多くのファンが知らない重要なポイントです。毎年12月にMLBはRule 5 Draft(ルール5ドラフト)を行います。これは「40人ロースターに保護されていないマイナー選手を、他球団が奪える制度」です。
条件は以下のとおりです:
- 18歳以下でドラフト指名→4年経過後に保護対象
- 19歳以上でドラフト指名→3年経過後に保護対象
つまり、一定年数が経過した有望なマイナー選手を40人ロースターに入れて保護しないと、他球団に奪われてしまうのです。これがチームに「40人ロースターの枠管理」を強いる理由です。有望株を守るために40人に入れると枠が埋まり、メジャーに呼びたい他の選手が入れなくなる。この綱引きが球団フロントの重要な仕事です。
Rule 5 Draftで奪われた選手の扱いも特殊で、翌シーズン中はメジャーロースターに置き続けなければならず、マイナーに落とすと元の球団に返還しなければなりません。「マイナーレベルの選手を無理やりメジャーに置く」というアンバランスな状況も生まれます。
野球通も驚く「サービスタイム操作」の実態
これはMLBの最大の「隠れた論争」の一つです。サービスタイム(service time)とは、選手がメジャーで過ごした日数で、これが選手の権利(年俸調停・FA資格)に直結します。
正確には172日(シーズンの約95%)以上プレーした年が「1年」としてカウントされます。シーズンは通常182日(4月〜9月末)なので、シーズン開幕から約2週間マイナーに置けば「0年」扱いになるのです。
球団はこれを利用して、本来メジャーで即戦力の有望選手を開幕2週間だけマイナーで過ごさせます。これにより選手のFA取得が1年遅れ、球団は1年分の安いサービスを追加で確保できます。年俸で言えば数十億円の差になるケースも。
最も有名な例がコリー・クルーバーとカイル・ブライアントのケースです。ブライアントは明らかにメジャークラスの実力があったにもかかわらず、2015年開幕を12日遅らせてマイナースタートにされました。これが大問題となり、2022年の労使協定でサービスタイム操作を防ぐルールが追加されましたが、完全には解決していません。
DFA(指定解除)とは——選手が「宙に浮く」10日間
DFA(Designated for Assignment=割り当て指定)は、40人ロースターから外れることを意味します。DFAになった選手には10日間の「宙ぶらりん期間」が生まれます。この間に球団は:
- トレードで他球団に放出する
- ウェーバーにかけて他球団が獲得できる状態にする(最下位球団から優先権)
- 本人が同意すればマイナーに降格させる
- それ以外は無条件解放(リリース)
ウェーバーにかけた場合、他球団が年俸を引き継いで獲得することができます。強豪球団が「いらなくなった」選手でも、別チームでは主力になることも多く、DFAはMLBにおける「第二のドラフト」的な機能を持ちます。
IL(故障者リスト)の深掘り——選手を「守る」仕組み
ILには一般に知られていないルールがあります。
「IL逆用」問題:一部の球団はケガをしていない選手をILに入れ、その間に別の選手を昇格させる「ロースター操作」を行うケースがあります(いわゆる「幽霊IL入り」)。これは規定上グレーゾーンで、MLBは監視を強化しています。
IL期間中の選手の扱い:IL中の選手は通常の給与を受け取ります。また、IL期間終了後はいつでも復帰できますが、復帰後10日間は再びILに入れないルールがあります。
60日ILの特殊性:60日ILに入ると自動的に40人ロースターから外れ、その枠を別の選手に使えます。長期離脱が確定した選手を60日ILに入れ、その枠に別の選手を追加するのが一般的な戦略です。
オプション権——「往復切符」の制限
選手をマイナーに降格させるには「オプション権」が必要です。通常の選手は3回のオプション権を持ちます。1回使うと1シーズン(複数回の昇降格でも1回分)消費。3回使い切ると「オプションなし」になります。
オプションなしの選手をマイナーに送るには、まずDFAにしてウェーバーをかける必要があります。他球団がウェーバーを通過しなければマイナーへ行けますが、通過されれば放出になります。これが「オプションなし選手はトレード候補になりやすい」理由です。
日本人選手で言えば、ポスティングでメジャー入りした投手がマイナー調整するケースがあります。この場合もオプション権の有無が重要で、球団との契約交渉時にオプション権の条件が注目されます。
2026年シーズン途中のロースターの動き——チームが語る戦略
ロースターの動きを見ると、チームの方針や選手評価が透けて見えます。例えば:
- 先発投手が打たれた直後に「IL入り」→「故障か左遷か」を注目
- 7月31日のトレードデッドライン前後のDFA増加→補強のための枠作り
- 9月1日に一気に28人へ拡大→有望若手を試す時期
これらの動きを理解すると、単なる「試合結果」を追うだけでなく、チームの長期戦略が見えてくる楽しさがあります。
まとめ
- アクティブロースター26人(投手最大13人)→9月から28人
- 40人ロースターに保護しないとRule 5 Draftで他球団に奪われる
- サービスタイム操作:開幕2週間マイナーに置くだけでFA権取得が1年遅れる
- DFA=10日間の宙ぶらりん。トレード・ウェーバー・マイナー・リリースの4択
- IL逆用(ロースター操作)という慣行が存在し問題化している
- オプション権は3回まで。使い切ると降格にはDFAが必要になる
データ出典: MLB公式ルール / ダイヤモンドスタッツ

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