8月30日、ヤンキースタジアムで行われたレッドソックス戦で、ヤンキースが16-1の大勝を収めた。試合を決定づけたのは8回裏の9得点だが、その序盤、7-1と6点をリードしていた場面でジャズ・チザムが二塁・三塁と連続で盗塁を決めたことが波紋を呼んだ。
守備側が二塁走者への警戒を緩めていた中での盗塁に、レッドソックスのラジオ実況を務めるウィル・フレミング氏が激怒。相方のウィル・ミドルブルックス氏との中継で「野球のやり方が間違っている」「ブッシュリーグの選手」と痛烈に批判し、投手ジョバニ・モランが次打者オースティン・ウェルズに死球をぶつけることまで示唆する発言をした。フレミング氏は翌31日、SNSで「一線を越えた。感情が放送に出てしまった」と謝罪している。
ダイヤモンドスタッツでは、この盗塁が実際にヤンキースの勝率をどれだけ動かしたのかを試算し、論争の是非を数字で検証する。
盗塁が動かした勝率は0.2ポイントにも届かなかった
一般的な期待勝率モデルでは、勝敗の行方はイニング・得点差・アウトカウントの組み合わせでほぼ決まる。8回裏開始の時点で、ホームチームが6点(7-1)をリードしている状況は、すでに勝率が99%台後半に達している「勝敗がほぼ決した」局面にあたる。

ダイヤモンドスタッツが同モデルをもとに各時点の勝率を試算すると、次のようになる。
| 時点 | 状況 | ヤンキース勝率(試算) |
|---|---|---|
| 8回裏開始 | 7-1・無死無走者 | 約99.5% |
| チザム二盗成功後 | 7-1・無死二塁 | 約99.6% |
| チザム三盗成功後 | 7-1・無死三塁 | 約99.7% |
| 試合終了 | 16-1で決着 | 100% |
二盗・三盗を合わせても、勝率の上昇はわずか0.2ポイント程度にとどまる。
一つのプレーが勝敗に与える影響の大きさを示す「レバレッジ指数」の目安で比較すると、この場面の低さがより際立つ。
| 場面 | レバレッジ指数の目安 | 1プレーが勝率に与える影響 |
|---|---|---|
| 同点・1点差の終盤 | 高い(2〜4倍程度) | 数%〜10%以上動くことも |
| 3〜4点差の中盤 | 中程度 | 1%前後 |
| 6点差・8回無死(今回) | ほぼ0 | 0.1%未満 |
数字だけを見れば、チザムの盗塁は試合の行方にはほとんど関係していなかったことになる。
「40盗塁」は勝率でなく個人記録のための一歩だった
この日の三盗はチザムにとって今季40個目の盗塁で、ヤンキースの選手が1シーズンで40盗塁に到達したのは2011年のブレット・ガードナー以来という節目だった。近年のMLBは本塁打偏重の打撃スタイルが主流になっており、シーズン40盗塁に届く選手自体が限られる中での到達となる。
勝率をほとんど動かさない場面であえて次塁を狙った背景には、チームの勝敗ではなく自身の記録更新があったとみられる。フレミング氏が「個人成績を稼いでいる」と評したのは、0.2ポイントという試算結果を見る限り的外れとは言い切れない。ただし、盗塁自体はルール違反ではなく、その先の是非は数字とは別の論点として残る。
6点差は「走ってはいけない」ラインなのか
MLBに明文規定はないが、選手間で語られる不文律では、7回以降に3〜5点差以上リードしているチームが盗塁を仕掛けると「マナー違反」とみなされやすいとされる。今回の6点差・8回はまさにその範囲に入る場面だった。
一方で、守備側が二塁走者を「警戒していなかった」点も見逃せない。試算通り勝率への影響がほぼ無い局面であれば、守る側にとっても阻止する動機は乏しく、警戒が緩んでいたこと自体がその時点での試合の力関係を映していたとも言える。フレミング氏の謝罪は、こうした「数字の上では大勢に影響しない」場面での感情的な反応だったことを裏付ける結果にもなった。
まとめ
8月30日のヤンキース対レッドソックス戦は16-1の大差で決着したが、序盤7-1の時点でのチザムの二盗・三盗が「不文律」論争を呼んだ。ダイヤモンドスタッツの試算では、この盗塁が勝率に与えた影響は合計0.2ポイント程度にとどまり、試合の行方にはほぼ関係していなかった。チザムにとっては2011年のガードナー以来となるヤンキース選手の40盗塁という個人的な節目の方が、この日のプレーの意味としては大きかったと数字は示している。
ヤンキース対レッドソックスの前後の戦況や、MLBの日本人選手を含む試合後データは8月16日 MLB日本人選手 試合後データレポートや8月10日 MLB日本人選手 試合後データレポートでもまとめている。
よくある質問
Q. チザムの盗塁は何個目だったのか
8月30日の三盗が今季40個目の盗塁で、ヤンキースの選手としては2011年のブレット・ガードナー以来の40盗塁到達だった。
Q. 実況が激怒した理由は
レッドソックスの守備が二塁走者への警戒を緩めていた中で、7-1と6点リードのヤンキースが連続で盗塁を決めたため、ラジオ実況のウィル・フレミング氏が「野球のやり方が間違っている」と批判した。

Q. 盗塁は試合の勝敗にどれくらい影響したのか
ダイヤモンドスタッツの試算では、二盗・三盗を合わせても勝率の上昇は0.2ポイント程度で、試合はすでにヤンキース優位でほぼ決していた局面だった。
Q. 実況は謝罪したのか
フレミング氏は翌31日、SNSで「一線を越えた。感情が放送に出てしまった」と謝罪している。
Q. この試合の最終スコアは
ヤンキースが16-1でレッドソックスを下した。8回裏に9得点を挙げる猛攻があり、オースティン・ウェルズがこの回に2本塁打を放っている。
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文:DiamondStats 分析チーム(MLBデータ分析担当)|データ出典:MLB公式Stats(2026年9月時点)





