米大学野球を統括する全米大学体育協会の野球監視委員会は8月24日、自動ボール・ストライク判定のチャレンジ制度を大学野球に導入する方針を決定したと報じられた。2027年シーズンからまずカンファレンス公式戦に限定して使用し、各校に1試合3回のチャレンジ権を与える。今季からMLBで本格導入された「ロボット審判」チャレンジ制度が一定の実績を積み上げたことを踏まえた動きで、全球を自動判定する韓国プロ野球に続き、米アマチュア球界にもこの技術が広がる形になった。MLBは開幕から5カ月近くにわたりチャレンジ制度を運用しており、公式に集計された数字から、実際にどれだけ判定が覆っているのかが見えてきている。
ABSチャレンジ制度の仕組み
MLBのABSチャレンジ制度は、球審の判定を機械が完全に代行するものではない。あくまで「人間の判定に対する異議申し立て」の制度で、次のルールで運用されている。
- 誰が使えるか:打者・投手・捕手の3者のみ。監督やベンチの選手は関与できず、ベンチからのサインが発覚すると退場処分もあり得る
- 回数:1チーム1試合につき2回。成功(判定が覆る)すれば権利は消費されず、失敗すれば1回減る
- 延長戦:チャレンジを使い切っていても、延長回に入るたびに1回分が補充される
- 合図の方法:判定から2秒以内に自分の頭上を軽く叩く
- 判定時間:ホークアイのトラッキングデータを使い、結果表示まで約15秒
開幕戦でこの制度を最初に使ったのはヤンキースの内野手ホセ・カバジェロで、要求した際は「ストライク」の判定が支持され、失敗に終わっている。
データ①:総チャレンジ7,100件超、成功率は53%
トレード期限だった8月3日時点の集計によると、開幕からのチャレンジ総数は7,100件を超え、そのうち判定が覆った割合(成功率)は53%だった。1試合平均では4回超のチャレンジが発生している。
| 項目 | 数値(8月3日時点) |
|---|---|
| 総チャレンジ数 | 7,100件超 |
| 判定が覆った割合 | 53% |
| 1試合あたりの平均チャレンジ数 | 4回超 |
53%という数字は、ほぼコイントスに近い。裏を返せば、チャレンジしても47%は元の判定通りで終わっているということでもあり、球審の目が的確だったケースも半数近くを占める。
データ②:捕手が最も的確、投手はほとんど使わない
チャレンジを申告する権利は打者・投手・捕手の3者に与えられているが、実際の使用状況と成功率には大きな差がある。
| 立場 | チャレンジ数 | 成功率 |
|---|---|---|
| 捕手 | 3,707件 | 59% |
| 打者 | 3,294件 | 48% |
| 投手 | 122件 | 36% |
捕手の成功率は打者より11ポイント高い(ダイヤモンドスタッツ算出)。投球を最も近い位置で見ている捕手の判断が最も的確という結果で、実際のチャレンジ数も打者とほぼ並ぶ3,707件に達している。一方で投手のチャレンジはわずか122件にとどまり、成功率も36%と最も低い。マウンド上から見る角度では際どい球の判定が難しいうえ、投球後すぐに次打者へ意識を切り替える必要があることも、申告数の少なさにつながっているとみられる。
データ③:球団間で成功率に20ポイント差
球団別に見ると、同じ制度を使っていても成功率には大きな開きがある。8月3日時点の上位・下位球団は次の通り。
| 順位 | 球団 | 成功率 |
|---|---|---|
| 1位 | レッズ | 63% |
| 2位 | ダイヤモンドバックス | 62% |
| 3位 | タイガース | 59% |
| 4位 | レンジャーズ | 58% |
| 5位タイ | アスレチックス・カブス・ロイヤルズ・ドジャース | 57% |
| 28位 | ホワイトソックス | 46% |
| 29位 | ガーディアンズ | 45% |
| 30位 | パイレーツ | 43% |
首位レッズと最下位パイレーツの差は20ポイント(ダイヤモンドスタッツ算出)。同じホークアイのデータを使える環境にありながら、どの球をチャレンジすべきか見極める「目利き」の部分でこれだけの差が生まれている。
韓国KBO・米アマ球界の広がりとNPBの現在地
ロボット審判の技術はMLBだけの話ではない。
韓国KBOは2024年から、チャレンジ制度ではなく全投球を自動判定する方式をすでに導入している。2025年にはストライクゾーンの上下位置を見直したほか、1軍より下位のフューチャーズリーグで「チェックスイング」を対象にしたチャレンジ制度の試験も始めており、将来的な1軍導入も視野に入れている。
米アマチュア球界では、冒頭の通り全米大学体育協会が8月24日に自動ボール・ストライク判定のチャレンジ制度の大学野球への導入を決定した。サウスイースタン・カンファレンスのカンファレンストーナメントで行った試験運用を踏まえたもので、2027年はまずカンファレンス公式戦に限定し、全試合への拡大は見送られた。1試合あたりのチャレンジ回数はMLBの2回より1回多い3回に設定されている。
日本のNPBは導入未定の段階にとどまる。ただし12球団の本拠地には投手と打者の動きを最大300fpsで追跡するカメラ4台と、フィールド全体を捉えるカメラ4台の計8台がすでに設置されており、将来の判定支援につながり得る基盤はある。選手会も判定精度の向上には前向きな姿勢を示しているが、全球場への追加投資や審判組合との協議が必要で、導入時期のめどは立っていない。
まとめ
MLBが積み上げた7,100件超のチャレンジデータが示すのは、「際どい判定の半分近くは、実は覆っていた」という事実だ。成功率53%はほぼ五分だが、捕手だけを見れば59%まで上がり、球団別では63%から43%まで20ポイントの開きがある。同じ制度・同じ機材を使っても、誰がどう見極めて申告するかで結果が変わることを、この数字は物語っている。
米国ではこの実績をもとに大学野球への拡大が決まり、韓国ではすでに完全自動判定が3年目のシーズンを迎えている。日本のNPBはカメラという土台こそあるものの、実際の導入判断はまだ先になりそうだ。MLBのシーズンはこの後もチャレンジが積み重なっていく。終盤にかけて成功率や球団順位がどう動くかも、引き続き数字で追う価値がある。
よくある質問
Q. ABSチャレンジは誰が要求できる?
打者・投手・捕手の3人だけに権利があり、監督やベンチの選手は要求できない。ベンチからの合図が発覚した場合、要求自体が無効になったうえで関与した監督が退場になることもある。
Q. 1試合に何回まで使える?
1チームにつき2回。成功すれば権利は減らず、失敗すると1回分を消費する。延長回に入る際、手持ちが0であれば1回分が補充される。
Q. チャレンジすると判定が変わるまでどのくらいかかる?
Hawk-Eyeのトラッキングデータを使った再判定で、要求してから結果表示までは約15秒とされている。
Q. 日本のNPBにもABSは導入される?
2026年8月時点で導入は未定。ただし各本拠地に投球・打球を追跡するカメラがすでに設置されており、選手会も判定精度の向上には前向きな姿勢を示している。
Q. 韓国KBOのABSはMLBと同じ仕組み?
異なる。KBOは2024年から全投球を機械が自動判定する方式で、MLBのような「チャレンジ制」ではない。KBOでは今後、下部リーグでチェックスイングを対象にしたチャレンジ制度の試験も進んでいる。
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