Statcastが示した”封殺の法則”――スプリット低め誘導×ゾーン先行で45打者を沈黙させた投球設計の全体像
報道によると歴代2位の連続退者45人。その核心は「高め速球→低め落ち球」の二段構えと、打者に有利なカウントを渡さない徹底したゾーン管理にある。
完全試合は27人をすべてアウトにする偉業だ。では45人はどうか。1試合分の1.67倍にあたるこの数字は、試合をまたいで1人も出塁を許さない領域にいる証明であり、MLBの歴史を通じて指で数えられるほどしか到達した投手がいない超高次元の記録だ。報道によると、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸が2026年7月に45打者連続アウトを記録し、MLBの歴代2位に名を刻んだ。
DiamondStats(ダイヤモンドスタッツ)はこの記録を「なぜ生まれたか」という角度から掘り下げた。球種割合・コース配分・空振り率という3つのStatcast軸を使い、45人を封じた投球設計の正体を定量で解剖する。日本人選手の詳細成績はDiamondStats 日本人選手成績一覧で随時更新中だ。
セクション1:「連続退者45人」は歴代どこに位置するか
複数試合にまたがる連続退者は、MLB公式記録管理機関・イライアス・スポーツ・ビューローが公認する歴史的記録カテゴリのひとつだ。完全試合(単一試合27人)とは別枠として管理されており、前の試合の最終打者から次の試合の先頭打者まで連続を繋ぐ条件が満たされれば試合またぎでもカウントが継続される。
この定義のもとで「45人連続」がどれほど稀かを数字で示す。完全試合ちょうど27人の連続退者を達成したとすると、次の試合でもさらに18人を1人も出さずに切ってはじめて「45人」に到達する計算だ。試合をまたいでも崩れない投球の安定性が前提として求められる。
| 順位 | 投手 | 連続退者数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1位 | ユスメイロ・プチ(SF) | 46 | 2014年 |
| 2位タイ | 山本由伸(LAD) | 45 | 2026年・複数試合またぎ |
| 2位タイ | マーク・バーリー(CWS) | 45 | 2009年 |
| 4位タイ | ジム・バー(サンフランシスコ・ジャイアンツ) | 41 | 1972年 |
| 4位タイ | ボビー・ジェンクス(CWS) | 41 | 2007年 |
| 6位 | トム・ブラウニング(CIN) | 40 | 1988年 |
| 7位 | ランディ・ジョンソン(ARI) | 39 | 2004年 |
| 8位タイ | デビッド・ウェルズ(NYY) | 38 | 1998年・AL記録 |
| 8位タイ | ハービー・ハディックス(PIT) | 38 | 1959年 |
| 10位 | 上原浩治(BOS) | 37 | 2013年 |
▲ MLB公式記録・イライアス・スポーツ・ビューロー参考値に基づく歴代上位10人。1位プチ46人(2014年)、2位タイ山本/バーリー45人、4位タイ バー/ジェンクス41人(1972・2007年)。8位タイ以下は引用元による誤差あり(参考値)。
特筆すべきは1位との差がわずか1人だった点だ。ユスメイロ・プチが2014年に刻んだ46人にあと1人届かなかったものの、山本はマーク・バーリー(2009年)と並ぶ歴代2位タイに名を刻んだ。試合をまたいでも崩れない制圧力を証明した偉業だ。
セクション2:なぜ45人を封じられたか――Statcast球種×コース分析
連続退者記録の鍵は投球設計にある。山本の2026年シーズンのStatcastデータが示す最大の特徴は、スプリット(FS)を軸にした「高め速球→低め落ち球」の二段構えだ。
球種割合と役割分担(2026.7.20現在)
山本の2026年シーズンにおける主要球種の構成と役割は次の通りだ(Statcastトラッキングデータに基づく推定値)。
| 球種 | 使用割合(推定) | 平均球速(推定) | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| フォーシーム(FF) | 約35〜38% | 約152〜154km/h | カウント先行・高め誘導 |
| スプリット(FS) | 約27〜30% | 約142〜145km/h | 決め球・空振り誘発・低め落とし |
| カーブ(CU) | 約15〜18% | 約127〜132km/h | カウント調整・テンポ変化 |
| スライダー(SL) | 約10〜13% | 約140〜143km/h | 横ゾーン・右打者外角 |
| カット(FC) | 約5%以下 | 約148〜150km/h | 内角ゾーン突き |
| 4位タイ | ジム・バー(サンフランシスコ・ジャイアンツ) | 41 | 1972年 |
| 4位タイ | ボビー・ジェンクス(CWS) | 41 | 2007年 |
| 6位 | トム・ブラウニング(CIN) | 40 | 1988年 |
| 7位 | ランディ・ジョンソン(ARI) | 39 | 2004年 |
| 8位タイ | デビッド・ウェルズ(NYY) | 38 | 1998年・AL記録 |
| 8位タイ | ハービー・ハディックス(PIT) | 38 | 1959年 |
| 10位 | 上原浩治(BOS) | 37 | 2013年 |
▲ 球速・割合は2026年シーズンStatcastトラッキングデータに基づく推定範囲(ダイヤモンドスタッツ集計)。
「高め速球→低め落ち球」の二段構え
山本の投球設計の核心は、打者の視線をタテに動かす「眼の上下操作」にある。まず高めのフォーシームでストライクを先行させ、打者の意識をゾーン上部に引き上げる。そこへ外見がほぼ同じ軌道で出てくるスプリットを「ボールゾーンの直前」に送り込むと、速球と信じてスイングした打者のバットは空を切るか、強いトップスピンのゴロを打たされる。
フォーシームとスプリットの球速差は約10〜12km/h。さらに軌道の分岐点が遅く、打者が識別できるタイミングが非常に限られている。2026年シーズンのスプリット空振り率はMLB平均(30%前後)を大きく超え、推定40%超を維持しているとみられる。これが連続退者を支える最大の武器だ。
ゾーン管理:打者に有利なカウントを渡さない
もうひとつの柱がカウント先行率の高さだ。初球ストライク率が高く、打者が「打ちにいける状況」になる前に0-2や1-2のカウントを作ることで、スプリットを余裕を持って配球できる状況を自分で設計する。打者が追い込まれた状態でスプリットが低めに落ちると、打者には「振るしかない」か「見逃してストライク」の二択しか残らない。
コース配分(ヒートマップ)で見ると、フォーシームは「高め中央〜外角」、スプリットは「低め外角〜ボールゾーン下縁」の2か所に集中している。長打になりやすい「甘い中央ゾーン」へのフォーシームは最小限に抑えられており、これが打者が力強い打球を打てない構造的な理由だ。
以下のグラフはダイヤモンドスタッツが2026年シーズンの山本由伸のStatcastデータをもとに作成した球種使用傾向と成果の可視化だ。スプリットによる空振り・ゴロ誘発の比率と、コース別の投球集中度が数字に表れている。

▲ 山本由伸 2026年シーズン投球球種・コース分析(ダイヤモンドスタッツ独自集計 / Statcastデータ活用)
セクション3:今季成績の文脈――記録が生まれた”必然”
連続退者45人は偶発的な幸運ではない。今季の山本が一貫してMLBのトップラインの成績を維持し続けている延長線上にある。2026.7.20現在、MLB公式Statsで確認できる今季成績は次の通りだ。
山本由伸 2026年シーズン主要成績(2026.7.20現在)
| 勝敗 | 防御率 | 奪三振 | 投球回 | K/9 |
|---|---|---|---|---|
| 10勝6敗 | 2.78 | 113 | 119.2回 | 8.5 |
K/9=ダイヤモンドスタッツ独自集計(113×9÷119.2≒8.5)
防御率2.78はMLBのリーグ平均(4点台前後)を1点以上下回るエース水準の数字だ。奪三振113をK/9(9イニングあたりの奪三振数)に換算すると8.5(ダイヤモンドスタッツ独自集計)に相当し、リーグ上位のラインを維持している。投球回119.2回はシーズン中盤時点の数字として、1試合あたり平均6回以上を高い密度で投げ続けていることを示す。
日本人先発エースの中での立ち位置
2026年シーズン、MLBに在籍する日本人先発投手の中でも山本の防御率2.78と10勝は際立つ位置にある。今永昇太(CHC)・千賀滉大(NYM)との詳細な統計比較はDiamondStats日本人選手成績ページで確認できるが、勝ち星・防御率・投球回数の3指標が揃って高水準にある先発投手は稀であり、それがシーズンをまたいで連続退者記録を積み上げていく土台になっている。
「毎試合6回以上を失点なく抑える可能性が高い投手」が複数試合を連続させれば、いずれ40人台の退者記録が生まれる。今季の山本はその条件を満たし続けた、という解釈が数字から浮かび上がってくる。
DiamondStats編集部の独自視点!
記録が「あと1打者」で止まった意味
45人目でストップした事実は、逆説的に「46人目の1球がいかに重かったか」を教えてくれる。スプリットが数センチ外れてフォアボールになったのか、カウントが不利になった場面で速球を引っ張られたのか――どんな完璧な連続記録も必ず「最後の1球」で終わる。
記録が2位で止まったことは山本の実力の限界を示すものでは全くない。むしろ「45人連続でひとりも出塁させなかった」という事実だけで、その登板が何かの延長線上にある”たまたま”ではないことは明らかだ。
「歴代1位」塗り替えの可能性
報道によれば1位との差は1打者。防御率2.78・K/9=8.5という今季の数字を見れば、今後の後半戦でまた「連続退者カウンター」が動き出す登板が訪れる可能性を現実的に想定できる。
スプリット低め誘導×ゾーン先行という投球設計は再現性が高く、球威が維持されているうちは何度でも「出塁を許さない試合」が生まれ得る。DiamondStats編集部は後半戦の各登板を公式データで追い続け、連続退者数が再び積み上がる兆候が見えた時点でリアルタイムに発信する。山本由伸が次に記録の頂点に立つ瞬間を、数字とともに見届けたい。
- 山本由伸今季成績(勝敗・防御率・奪三振・投球回):MLB公式Stats(2026.7.20現在)
- K/9(8.5):ダイヤモンドスタッツ独自集計(113×9÷119.2)
- 球種割合・球速・空振り率推定値:MLB公式Statsトラッキングデータに基づく推定範囲(2026.7.20現在)
- 歴代連続退者ランキング:MLB公式記録・イライアス・スポーツ・ビューロー資料に基づく参考値。順位・記録は報道および公式記録にもとづく
- 本記事は起点となったニュース報道の数字・文章を引用・転載していない
- グラフ:ダイヤモンドスタッツ独自作成(Statcastデータ活用)





