ABSチャレンジが9000件突破 捕手58%と打者49%の差をデータ検証。
2026年9月4日現在(日本時間)、今季MLBで本格導入されたABS(自動ボール・ストライク判定)のチャレンジ制度は、開幕からの申告数が9,068件に達し、9,000件の大台を超えた。判定が覆った件数は4,869件、成功率は53.7%。レギュラーシーズン残り約3週間の時点で、1年目の全体像がほぼ固まった。
DiamondStats(ダイヤモンドスタッツ)は、MLB公式Statsが公開する全チャレンジのデータを独自集計し、「誰の申告が覆り、誰の申告が空振りに終わったか」を捕手・打者・投手の立場別に分けて調べた。結論を先に言うと、捕手の成功率58.5%に対して打者は48.7%で、9.8ポイントの差がある。ただしその差は「捕手の目が良い」だけでは説明がつかない。
立場別の成功率 捕手58.5%・打者48.7%・投手41.1%
まず全体を3つの立場に分けた。9月4日現在の集計は次の通り。
| 立場 | 申告数 | 覆った数 | 成功率 | 8月3日時点の成功率 |
|---|---|---|---|---|
| 捕手 | 4,761件 | 2,784件 | 58.5% | 59% |
| 打者 | 4,149件 | 2,020件 | 48.7% | 48% |
| 投手 | 158件 | 65件 | 41.1% | 36% |
| 合計 | 9,068件 | 4,869件 | 53.7% | 53% |
1試合あたりの申告数は4.3件(2,108試合で集計。DiamondStats調べ)。捕手と打者の順位は開幕からほとんど動いていない。
目を引くのは投手だ。8月3日時点では122件で成功率36%だったのが、9月4日現在は158件で41.1%まで上がった。この1か月に限れば36件中およそ21件が覆り、成功率は約6割(8月3日時点の公表値から逆算したDiamondStats独自集計)。申告数はまだ捕手の30分の1だが、終盤に入って投手の申告が「当たる」ようになってきている。
捕手が勝つのは目利きではなく「挑戦する球」の違い
捕手と打者の9.8ポイント差は、どこから来ているのか。MLB公式Statsには、申告した球の位置から「その球が覆る確率」を算出した期待成功率がある。実際の成功率と期待値を立場別に比べた。
| 立場 | 実際の成功率 | 期待成功率 | 差 |
|---|---|---|---|
| 捕手 | 58.5% | 58.9% | -0.4ポイント |
| 打者 | 48.7% | 49.1% | -0.4ポイント |
捕手も打者も、期待値とほぼ同じ成功率に落ち着いている。つまり捕手の方が判定を見抜く力が高いのではなく、捕手が申告する球はそもそも覆りやすい位置の球だということになる。ミットで受けた位置を体で知っている捕手は、ゾーンぎりぎりの球だけを選んで申告できる。打者は打席で球が体の横を通り過ぎるため、判断材料が少ないまま申告してしまう。
このデータの読み方については、8月3日時点の集計を基にした大学野球にもABS拡大決定 MLB本家「成功率53%」を数字で検証で扱った「捕手の成功率が高い」という事実の裏付けになる。
三振と四球はどれだけ動いたか 三振は差し引き233個増加
チャレンジで結果が変わるのは、ボール・ストライクの1球だけではない。ストライク3が取り消されれば三振が消え、ボール4が取り消されれば四球が消える。9月4日現在、打席の結果そのものが変わった件数を集計した。
| 覆った内容 | 守備側の申告 | 攻撃側の申告 |
|---|---|---|
| 三振が生まれた(ボール→ストライク3) | 790件 | ー |
| 三振が消えた(ストライク3→ボール) | ー | 557件 |
| 四球が消えた(ボール4→ストライク) | 293件 | ー |
| 四球が生まれた(ストライク→ボール4) | ー | 286件 |
三振に関わる覆しは1,347件、四球に関わる覆しは579件。差し引きすると三振は233個増え、四球はわずか7個増にとどまった(DiamondStats独自集計)。守備側の申告が三振を生み、攻撃側の申告が三振を消す構図で、四球はほぼ打ち消し合っている。制度全体で見ると、ABSチャレンジは「四球を増やす制度」ではなく「三振をわずかに増やす制度」として働いた1年目だった。
捕手ランキング リアルミュートが79.0%で期待値を20ポイント上回る
捕手個人で見ると、期待値通りに収まらない選手がいる。申告60件以上の捕手を、実際の成功率と期待成功率の差で並べた。
| 順位 | 捕手(球団) | 覆った数/申告数 | 成功率 | 期待成功率 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | J.T.リアルミュート(フィリーズ) | 49/62 | 79.0% | 59.0% | +20.0 |
| 2 | カーソン・ケリー(カブス) | 51/71 | 71.8% | 59.1% | +12.7 |
| 3 | ディロン・ディングラー(タイガース) | 65/98 | 66.3% | 54.1% | +12.2 |
| 4 | ハンター・グッドマン(ロッキーズ) | 63/95 | 66.3% | 55.5% | +10.8 |
| 5 | サルバドール・ペレス(ロイヤルズ) | 46/65 | 70.8% | 63.1% | +7.6 |
| 6 | タイラー・スティーブンソン(レッズ) | 84/122 | 68.9% | 61.5% | +7.3 |
リアルミュートは62件の申告で49件を覆した。同じ位置の球なら59%しか覆らないところを79%まで引き上げており、期待値との差20ポイントは60件以上申告した捕手で唯一の2桁後半だ。
覆した絶対数ではディングラーの65件がトップ。申告数98件はコントレラス(ブルワーズ、157件で85件成功)に次ぐ多さだが、成功率66.3%を保っており、量と質を両立させた唯一の捕手といえる。ディロン・ディングラーの成績・プロフィールにある守備面の評価と合わせて見ると、正捕手1年目のシーズンで得た信頼の一端がこの数字にも表れている。
逆に、申告60件以上で期待値を最も下回ったのはホワイトソックスのエドガー・ケロ。93件のうち覆ったのは46件(49.5%)で、期待成功率66.0%から16.5ポイントのマイナスだった。覆りやすい球を選んでいるのに結果が伴わず、球団の成功率49.1%(全体27位)を押し下げる要因になっている。
打者は507人が申告 20件以上はわずか44人
打者側は分散が大きい。9月4日現在で申告した打者は507人いるが、20件以上の申告があるのは44人だけだ。
| 区分 | 打者(球団) | 覆った数/申告数 | 成功率 |
|---|---|---|---|
| 申告最多 | ソル・スチュワート(レッズ) | 26/46 | 56.5% |
| 申告2位 | ブライス・ハーパー(フィリーズ) | 20/43 | 46.5% |
| 成功率最高(15件以上) | デービス・シュナイダー(ブルージェイズ) | 13/16 | 81.3% |
| 成功率2位(15件以上) | エステウリー・ルイス(マーリンズ) | 12/16 | 75.0% |
| 成功率最低(15件以上) | スペンサー・ホーウィッツ(パイレーツ) | 4/17 | 23.5% |
15件以上の申告があった打者で成功率が最も高いのはシュナイダーの81.3%。捕手リアルミュートの79.0%を上回るが、申告数は16件と4分の1にとどまる。一方で成功率が最も低いホーウィッツは17件中4件で、上位と下位の差は57.8ポイント。捕手の上下差(79.0%と49.5%で29.5ポイント)のほぼ2倍で、打者の申告は「誰が申告するか」で結果が大きく変わる。
球団別 レッズ63.1%が首位 最下位パイレーツとの差は15.7ポイントに縮小
球団単位の成功率も出そろった。9月4日現在の上位5球団と下位4球団を示す。
| 順位 | 球団 | 覆った数/申告数 | 成功率 |
|---|---|---|---|
| 1 | レッズ | 205/325 | 63.1% |
| 2 | ダイヤモンドバックス | 158/265 | 59.6% |
| 3 | カブス | 172/290 | 59.3% |
| 4 | アスレチックス | 193/327 | 59.0% |
| 5 | タイガース | 163/280 | 58.2% |
| 27 | ホワイトソックス | 184/375 | 49.1% |
| 28 | ナショナルズ | 142/290 | 49.0% |
| 29 | ガーディアンズ | 138/290 | 47.6% |
| 30 | パイレーツ | 143/302 | 47.4% |
レッズの首位は8月3日時点(63%)から変わらない。ただし最下位パイレーツが43%から47.4%へ持ち直したため、首位と最下位の差は20ポイントから15.7ポイントに縮まった。申告数の最多はツインズの385件、最少はカージナルスの238件で、球団によって1.6倍の開きがある。
レッズについては、8月9日時点の集計を基にしたレッズ挑戦効率0.114点でMLB最高 ロボット審判1年目を検証で申告1回あたりの得点価値を扱っている。成功率の首位はその後も守られた形だ。
DiamondStats編集部の独自視点!
1年目のABSチャレンジで編集部が最も驚いたのは、捕手と打者の成功率の差が「目利きの差」ではなかったことだ。期待値と照らすと両者ともほぼ期待通りで、差を生んでいたのは申告する球の位置だった。この構造がある限り、打者側の成功率を上げる近道は「申告を減らして球を選ぶ」ことになる。
もう1つの注目は投手だ。まだ158件と数は少ないものの、8月以降は成功率が6割近くに上がった。投手はマウンドから捕手のミットの位置を正面で見ている。来季、投手の申告が増えるかどうかは、この制度の使われ方を変える分かれ目になる。
ポストシーズンでは1試合の申告権2回の重みが段違いに増す。リアルミュートのように期待値を20ポイント上回る捕手を持つ球団が短期決戦でどれだけ得をするのか、編集部は10月も数字を追い続ける。
まとめ
9月4日現在、ABSチャレンジは9,068件で成功率53.7%。捕手58.5%、打者48.7%、投手41.1%と立場で差があるが、期待成功率と比べると捕手も打者も期待通りで、差の正体は申告する球の位置にあった。個人ではリアルミュートが期待値を20ポイント上回る79.0%で群を抜き、三振は制度全体で差し引き233個増えた。球団ではレッズが63.1%で首位を保っている。
よくある質問
Q. ABSチャレンジの成功率は2026年で何%ですか
9月4日現在で53.7%です。申告9,068件のうち4,869件で判定が覆りました。捕手58.5%、打者48.7%、投手41.1%と、立場によって差があります。
Q. ABSチャレンジが最もうまい選手は誰ですか
申告60件以上の捕手ではフィリーズのJ.T.リアルミュートが62件中49件、成功率79.0%で最高です。打者では15件以上の申告があった中でブルージェイズのデービス・シュナイダーが16件中13件、81.3%で最高です。
Q. なぜ捕手の方が打者より成功率が高いのですか
MLB公式Statsの期待成功率で比べると、捕手も打者も期待値とほぼ同じです。捕手はミットで受けた位置を知っているため、覆りやすいゾーンぎりぎりの球だけを選んで申告できることが差の理由です。
Q. ABSチャレンジで三振や四球はどれくらい変わりましたか
9月4日現在、三振に関わる覆しは1,347件、四球に関わる覆しは579件です。差し引きで三振は233個増え、四球は7個増にとどまりました。
Q. 球団別でABSチャレンジの成功率が高いのはどこですか
レッズが325件中205件、成功率63.1%で首位です。最下位はパイレーツの47.4%で、その差は15.7ポイントです。
MLBの試合中継の予定は放送情報にまとめています。終盤戦でチャレンジが使われる場面を、実際の中継で確かめてみてください。
データはMLB公式Statsを独自に集計(2026年9月4日現在)。
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文:DiamondStats 分析チーム(MLBデータ分析担当)|データ出典:MLB公式Stats(2026年9月時点)





